実は、本当にできるとは思っていなかった。
「北のロイヤル」という名前を最初に聞いたとき、どこか半信半疑だった。
北欧館とロイヤル。
大阪のゲイカルチャーを長く知る人なら、その二つの名前には、それぞれの時間や記憶がある。
なくなってしまった場所は、普通は戻ってこない。
だから、新しい施設ができると聞いても、「本当に?」という気持ちのほうが先にあった。
でも、工事は進んだ。
建物ができ、浴場ができ、サウナができ、ロッカーが入り、食堂が形になっていく。
そして2026年秋。
大阪・堂山町のすぐ隣、神山町で、その場所は本当に姿を現そうとしている。
名前は「北のロイヤル」
新しいサウナがオープンする、というだけなら、それほど珍しいニュースではない。
けれど、この名前を聞いて少し胸がざわつく人がいるのは、「北」と「ロイヤル」という二つの言葉が、大阪のゲイカルチャーの記憶につながっているからだ。
2023年3月31日、大阪で長く親しまれてきた堂山町の「北欧館」と、新世界の「ビジネスインロイヤル」が営業を終了した。
北欧館は40年以上にわたり営業してきた男性向けサウナで、その突然の閉館は利用者の間に大きな驚きをもたらした。
それから約3年。
その記憶を受け継ぐように準備が進められているのが、北のロイヤルだ。
「北欧館」の北と、「ロイヤル」のロイヤル
名前の由来は、とてもストレートだ。
北欧館の「北」。
そして、ロイヤルの「ロイヤル」。
この二つを組み合わせて「北のロイヤル」。
現在公開されている現地情報では、かつてのロイヤルが持っていた要素を新しい施設の中に再構築することがコンセプトのひとつになっているという。
建物自体は新築で、大阪市北区神山町、阪急東通り商店街からほど近い場所に建てられている。
つまりこれは、昔の店をそのまま復活させる話ではない。
記憶は残す。でも、建物は新しい。
その距離感が、北のロイヤルのおもしろいところだ。
サウナだけではない。「一日いられる場所」へ
公開されている情報を追っていくと、施設の規模はかなり大きい。
浴場には湯船と水風呂、ドライサウナ、スチーム/ミスト系サウナ、洗い場やシャワーブースが用意される予定で、9月中旬には浴槽への給湯や水質検査まで進んでいることが報告されている。
館内にはリラックススペースやシアター系の空間、複数タイプの個室なども準備されている。
さらに目を引くのが、読書室だ。
そこに置かれる予定なのは、一般的な漫画や雑誌だけではない。
長い時間の中で発行され、いまでは入手することも難しくなったゲイ雑誌が集められている。
公開情報では約1,300冊規模の蔵書が紹介されており、北九州や広島などから寄贈された雑誌もあるという。(未確認ネット情報)
これは意外と重要なことかもしれない。
インターネット以前、ゲイ雑誌は単なる成人向けメディアではなかった。
人と人をつなぎ、店を知り、自分と似た人がいることを確認するためのメディアでもあった。
それが、一つの部屋に残される。
北のロイヤルは新しい建物なのに、その中には大阪だけではない日本のゲイカルチャーの時間が積み重なることになる。
カレーまで「帰ってくる」
もう一つ、妙に気になるのが食堂だ。
9月に入って公開された館内情報では、食堂の整備も進み、北欧館やロイヤルで提供されていたカレーを再現する予定だと伝えられている。
焼きそばなどの提供予定も紹介されている。
たかがカレー、と思うかもしれない。
でも、昔の場所を覚えている人にとって、記憶は建物だけに宿るわけではない。
匂いだったり、椅子だったり、風呂上がりに食べたものだったりする。
だから「同じような設備を作る」だけではなく、食堂の味まで拾い直そうとしていることに、この施設の性格がよく表れている。
ワークスペースまである、新しい「ロイヤル」
一方で、昔を再現するだけでもない。
公開されている施設概要には、電源を備えたワーキングスペースやWi-Fi、マッサージチェアなど、現在の利用スタイルを意識した設備も挙げられている。
外出券を利用して一度館外へ出る仕組みも予定されているという。
昼間はPCを開く。
風呂に入る。
誰かと話す。
少し眠る。
夜になったら堂山へ出る。
そして戻ってくる。
そんな使い方まで想像できる。
「発展場」「ゲイサウナ」という一言だけでは、少し説明しきれない施設になりそうだ。
新築なのに、どこか懐かしい
9月中旬の工事状況では、シューズロッカー、ロッカールーム、洗面スペース、食堂、浴場、ドライサウナ、ミストサウナ、読書室、リラックスルーム、個室などが、かなり具体的な姿を見せ始めている。
館内には、旧施設などから引き継いだ調度品や備品も取り入れられているという。
全部を新品にすることは簡単だ。
でも、全部新品にしてしまったら消えてしまう空気もある。
古いものを少しだけ残しながら、新しい建物の中に置く。
北のロイヤルがやろうとしていることは、そんな「継承」に近いのかもしれない。
なぜ、こんな場所が必要なのだろう
ゲイの出会い方は、この20年ほどで大きく変わった。
雑誌から掲示板へ。
掲示板からSNSへ。
そしてアプリへ。
人に会うだけなら、スマートフォンひとつで済む時代になった。
それでも、バーやクラブ、サウナのようなリアルな場所が完全になくならないのはなぜだろう。
たぶん、そこには「誰かを探す」以外のものがある。
知らない人がいる。
いつもの人がいる。
目的もなく座っている人がいる。
風呂から上がってテレビを見ている人がいる。
カレーを食べている人がいる。
そんな、ネットでは作りにくい時間がある。
北欧館やロイヤルを懐かしむ声も、単に設備を惜しんでいるだけではないのだろう。
そこにあった時間や、人との距離や、自分がそこにいた頃の記憶まで含めて、場所を覚えているのだと思う。
2026年10月、神山町から始まる
当初から2026年10月の開業が予定されており、9月中旬の現地情報では10月中旬ごろまでのオープンを目指して最終準備が進んでいると伝えられている。
ただし、正式な開業日は営業許可などを含む最終調整後の発表になるため、利用予定の人は公式発表を確認してほしい。
北欧館が閉じた2023年から、約3年半。
同じ建物が戻ってくるわけではない。
同じ時代が戻ってくるわけでもない。
でも、そこにあったものを知る人たちが、新しい場所へ少しずつ記憶を持ち寄っている。
古いゲイ雑誌。
ロイヤルブルーの絨毯。
サウナ。
大浴場。
食堂のカレー。
そして、そこへこれから初めてやって来る人たち。
北のロイヤルは、昔のロイヤルの続きであると同時に、これからの大阪のゲイカルチャーがどういう場所を必要とするのかを見る、新しい実験なのかもしれない。
神山町で、その扉が開く日はもう近い。
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画像は北のロイヤル 公式X から
@kitanoroiyaru

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