[Interview]10年後に完成する写真。OnlyFansの撮影も手がける写真家が見つめる、人と街と時間

横浜の街を歩く写真家
PRIDE LIFE JAPAN / INTERVIEW

OnlyFansの撮影も手がける写真家が見つめる、人と街と時間 10年後に
完成する写真。

人を撮る。街を撮る。けれど彼が本当にカメラを向けているものは、 その場所と人のあいだを流れている「時間」なのかもしれない。

INTERVIEW / PHOTOGRAPHY / YOKOHAMA / 2026

10年後、20年後に
面白くなる写真を撮りたい。

写真を撮る人に、「何を撮りたいですか?」と聞く。

人物。風景。街。ファッション。

そんな明快な答えが返ってくると思っていた。

けれど、彼の答えは少し違った。

「10年、20年経ったときに、面白いなと思える写真を撮りたいんです」

その言葉を辿っていくと、彼がカメラを向けているのは、目の前にいる人物や街だけではないことが分かってきた。

撮っているのは、その背後にある「時間」なのかもしれない。

変わってしまう前に、残しておきたい

「何を撮りたい?」と聞くと、少し考えてから、彼はこう答えた。

「10年、20年経って見たときに、面白いなっていう写真を撮りたいですね」

たとえば、新宿の小田急百貨店。

建て替えが始まり、長くそこにあった風景は大きく変わろうとしている。

彼は、建物がなくなる前に一度写真を撮りに行ったという。

「なくなっちゃうとか、変わっちゃうものを、変わる前に残しておきたいというのはあります」

卒業制作でも、いつか同じ場所をもう一度撮りたいと考えていた。

10年後。

20年後。

同じ場所に立ったとき、そこには何が残っていて、何がなくなっているのか。

彼にとって写真とは、美しい瞬間を切り取るものというより、失われていくものを未来へ置いておくためのものなのかもしれない。

写真の始まりは、家族のアルバムだった

カメラとの出会いは、小学生の頃まで遡る。

きっかけは、家にあった昔のアルバムだった。

「自分が覚えていない頃の写真が写っていたり、忘れていた記憶を思い出したりして。それがすごく面白かったんです」

写真の中には、自分が知らない自分がいた。

忘れていた景色があり、もう戻ることのできない時間が残っていた。

そこで彼は、写真の「記録」という側面に惹かれた。

小学校4年生か5年生の頃には、自分でも写真を撮り始めた。

最初の頃に撮ったものとして覚えているのは、家の裏にあったグラウンドだ。

そこでは同じ小学校の友人たちが遊んでいた。

彼はカメラを持って、その様子を撮りに行った。

最初から、特別な場所ではなかった。

身近な人。

身近な街。

自分の周囲にある、ごく普通の日常だった。

「なくなっちゃうとか、変わっちゃうものを、変わる前に残しておきたい」

INTERVIEW

写真を仕事にすることを考えた高校時代

高校では写真部に入った。

そこで写真を撮ることが、さらに面白くなっていった。

高校生の頃に撮影した、犬を抱えたおじいさんの写真は、神奈川新聞に取り上げられたこともあるという。

高校時代に写真家が撮影した犬を抱えた男性の写真
高校時代に撮影した、犬を抱えたおじいさんの写真。

進路を考える時期になり、写真を学ぶ道を選んだ。

写真家を志す人に「好きな写真家は?」と聞けば、歴史に残る巨匠の名前が出てきそうなものだ。

けれど、彼が挙げたものは少し違った。

一つは『浅田家』。

家族が消防士やラーメン屋など、さまざまな人物になりきって撮影されたシリーズだ。

そしてもう一つが『東京グラフィティ』だった。

彼が惹かれるのは、完璧に作り込まれた一枚というより、そこに暮らしている人間や、その時代の空気まで写り込んでいる写真なのだ。

昔の写真を見るのが好き

古い写真を見ることも好きだという。

20年前の東京。

さらに昔の街。

そこに写っている服装、店、看板、部屋、人々の表情。

「懐かしいという感じもあるし、新鮮な感じもあります。自分の記憶と少し違っていたりして」

では、それは単純なノスタルジーなのだろうか。

話しているうちに、もう少し違う感覚なのではないかと思えてきた。

過去の写真を見る彼の視点には、少し距離がある。

たとえるなら、船が港を離れ、沖へ出たあとに、出発した岸を振り返るような感覚。

そこには懐かしさがある。

同時に、少し客観的に眺めている自分もいる。

現在から少し距離を取ることで、初めて見えてくるものがある。

「近すぎると、あまり面白くないんです。遠くなればなるほど面白い」

明治時代でもいい。

20年前でもいい。

10年前でもいい。

時間が離れるほど、写真の中に新しい発見が生まれる。

「人」より、「時代の中にいる人」を撮っている

話を聞いていて、ひとつ気づいたことがあった。

彼が興味を持っているのは、単純な意味での「人物写真」ではない。

一人の人間の内面だけを深く掘り下げたい、ということとも少し違う。

その人が、どんな時代に、どんな街で、どんなものに囲まれて生きていたのか。

「時代の中にいる個人」に興味があるのではないか。

そう伝えると、

「そうかもしれないですね」

と答えた。

たとえば、人が暮らしている「部屋」。

部屋には、その人自身が表れる。

どんなものを買っているのか。

何を大切にしているのか。

どんな服を着て、何を読み、何を飾っているのか。

同時に、その時代も表れる。

家具、家電、雑誌、ポスター、パソコン、生活用品。

部屋を一枚撮れば、「個人」と「時代」の両方が残る。

「いろんな人が暮らしている部屋を撮るシリーズって面白いですよね」

そう話す表情は、この日、一番「撮りたいもの」に近づいているように見えた。

性的な撮影でも、撮る側は冷静だった

現在、人物の写真だけでなく、映像撮影を頼まれることもある。

中には、性的なコンテンツを撮影することもあるという。

カメラを置いて退出するのではない。

撮影している間は、同じ部屋にいる。

目の前で性的な行為が行われている状況で、撮影する側はどんな気持ちなのだろう。

「最初は、自分も影響されてそういう気分になるのかなと思っていたんですけど、毎回撮影に没頭しちゃうので、あまりならないですね」

もちろん、相手がタイプだったり、予想していなかった反応を目にしたりすれば、感情が動くこともある。

それでも基本的には「撮ること」に集中している。

被写体を性的な対象として見ることと、作品としてどう見せるかを考えること。

同じ人物を前にしていても、この二つの視点はかなり違うらしい。

「撮ってください」から、「撮らせてください」へ

現在は、依頼されて撮ることが多い。

けれど、これからは少し違う撮影もしてみたいという。

自分から、

「この人を撮りたい」

と思った人物に声をかけること。

まだ、それほど積極的にはやっていない。

「行動できていない、という感じですかね」

撮ってみたいのは、今まさにその場所で活躍している人。

目立っている人。

有名な人。

ただし、単純に格好よく撮るだけではない。

SNSや宣材写真で見せている表情とは違う、その人自身も撮ってみたい。

「普段写真に写っている表情とは違う感じも撮ってみたいですね」

作られた人物像の、少し外側。

そこには、彼がずっと興味を持ってきたものがある。

表面的な「今」ではなく、後になって見返したときに意味を持つ「今」だ。

10年後に完成する写真

写真は、シャッターを押した瞬間に完成するものだと思っていた。

けれど、彼の話を聞いていると、少し違って見えてくる。

2026年に撮った一枚が、本当に面白くなるのは2036年かもしれない。

あるいは2046年かもしれない。

今は当たり前すぎて誰も気に留めない街並み。

なんとなく着ている服。

部屋に置いてあるもの。

友達と遊んでいる姿。

そこにいる人自身でさえ意識していない表情。

時間が経つことで、写真の意味は変わっていく。

彼は、未来の誰かがその写真を見る瞬間まで含めて、写真を撮っているのかもしれない。

「何を撮りたいか、自分でも難しいんですよね」

インタビューの途中、何度かそう話していた。

けれど、話し終わる頃には、その答えが少しだけ見えた気がした。

人を撮りたい。

街を撮りたい。

風景を撮りたい。

けれど、本当に撮りたいものは、そのどれか一つではない。

その場所に、その人が存在したということ。

そして、その周囲に流れていた時間。

10年後、20年後。

一枚の写真を見た誰かが、

「この頃って、こんな感じだったんだ」

と思う。

おそらく彼が残したいのは、そんな瞬間なのだ。

AFTER THE INTERVIEW

取材を終えて

取材の前、彼が「ムービルを見ておきたい」と言った。

横浜西口に長くあった映画館で、まもなくその姿を消す場所だ。そこで少し一緒に歩くことにした。

写真を撮る人なのに、自分自身が写真に撮られることは少し苦手らしい。カメラを向けると、どこか照れくさそうにする。

その一方で、「なまくり」という自動販売機専用の生クリーム缶デザートを見つけると、興味を示して買っていた。そんな少し可愛らしい一面もあった。

街を歩いている途中では、以前そこにあった蕎麦屋の話をした。

店はすでに移転し、かつてそこにあった風景はもうない。

彼は、そのなくなった店のことを静かに思い出していた。

映画館も、蕎麦屋も、自動販売機で買った少し変わったデザートも、いつかは「この頃には、こんなものがあった」と振り返るものになるのかもしれない。

取材のために街を一緒に歩いているうちに、彼がなぜ失われていく場所や、その時代の中にいる人を撮りたいと思うのか、少しだけ分かった気がした。

彼が被写体に向けているのは、珍しいものを探す視線ではない。

いま目の前にあるものが、いつまでもそこにあるわけではないことを知っている人の視線なのだと思う。

PHOTO NOTES

横浜、ある日の記録。

インタビューの前後に歩いた街と、その途中で目にしたもの。

横浜の街を歩く写真家
横浜ムービル
なまくりの自動販売機
横浜の街に描かれた壁画
横浜の街に残された言葉
写真家の横顔
スマートフォンで写真を見る様子
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