2026年9月、トルコでLGBTQ+の人々や支援団体をめぐる大規模な取り締まりが始まった。
LGBTQ+団体の事務所や活動家の自宅、関連施設などが相次いで捜索され、多数の人々が拘束された。さらに、拘束された活動家たちの釈放を求めて集まった市民も警察によって拘束されている。
これは、一日だけの出来事ではない。
9月12日ごろからインターネット上の規制が始まり、13日には全国規模の捜索・拘束へ発展。その後、勾留決定や抗議活動への介入が続いている。
トルコ政府は、この一連の捜査を「家族」「子ども」「社会秩序」を守るためのものだと説明している。
一方、国際的な人権団体は、LGBTQ+の人々や市民社会を広範囲に標的にした取り締まりだとして強く批判している。
15県、162人が捜査対象に
Reutersによると、今回の捜査はトルコ国内15県に及び、司法当局は162人、9つの団体、13の事業所を捜査対象としている。
作戦には、
「Ailem Güvende」
=「My Family Is Safe(私の家族は安全)」
という名称が付けられている。
9月13日の時点でReutersは、少なくとも47人が拘束されたと報道した。(Reuters)
Amnesty Internationalが9月15日に発表した情報では、その後、60人以上が拘束され、少なくとも23人が公判前勾留、160人以上が刑事捜査の対象となっている。
さらに、LGBTI団体や活動家、ジャーナリスト、メディアなどに関係する180以上のSNSアカウントや複数のウェブサイトが遮断または制限されたという。(Amnesty International)
Amnesty Internationalトルコ支部のXアカウントも、トルコ国内からアクセスできない状態になった。
抗議した人々も拘束された
捜査に対する抗議も広がっている。
9月15日、イスタンブールのÇağlayan裁判所前では、拘束されたLGBTQ+活動家たちの釈放を求める抗議活動が行われた。
APによれば、警察は抗議に参加していた多数の市民を拘束した。(AP News)
Reutersは同日、イスタンブールやアンカラなどで行われた抗議をめぐり126人が拘束されたと報じている。また、一連の捜査では少なくとも31人について、公判までの勾留が決められたとしている。(Reuters)
つまり現在起きているのは、LGBTQ+団体そのものへの捜査だけではない。
それに反対するデモや、市民社会による抗議活動にも影響が広がっている。
政府が掲げているのは「家族の保護」
トルコ政府は今回の捜査について、LGBTQ+であること自体を犯罪として取り締まっているとは説明していない。
実際、トルコで同性間の性的関係そのものは違法ではない。
当局は「売春」「わいせつ」「薬物」など既存の犯罪容疑を挙げるとともに、子ども、若者、家族、公序良俗を守ることを捜査の理由としている。(Reuters)
ただ、その背景を理解するためには、ここ数年間のトルコの政策を見る必要がある。
2025年は「家族の年」だった
エルドアン政権は2025年を「家族の年」と位置づけた。
Human Rights Watchによれば、その年、家族・社会サービス省は81県の担当部署に対し、
「ジェンダー」
「性的指向」
「性自認」
などの用語を行政上使用しないよう指示した。
政府側は、家族や社会を守ることを理由としていた。(Human Rights Watch)
同じ年、LGBTの人々への刑事規制を強める可能性のある法案草稿も明らかになった。
そこには「生物学的性別や公序良俗に反する」と判断された行為や、それを「奨励・称賛」する行為を刑事罰の対象とする内容が含まれていた。
この案は当時、そのまま国会で成立することはなかった。
しかし2026年6月、Human Rights Watchは、非常によく似た内容の法改正案が再び政府・与党内で検討されていると報告した。
報道された案では、曖昧に定義された「生物学的性別や公序良俗に反する行為」やその宣伝などについて、最大3年の禁錮刑を科せる可能性があるという。(Human Rights Watch)
2026年9月16日時点で、この内容がそのまま正式な法律として成立したと確認されているわけではない。
しかし、LGBTQ+をめぐる政策環境が段階的に厳しくなってきたことは確認できる。
背景にある「出生率」の問題
もう一つ重要なのが、トルコの人口問題だ。
トルコ統計局によれば、女性1人が生涯に産む子どもの平均数を表す合計特殊出生率は、
2001年 2.38
2025年 1.42
まで低下した。
人口を長期的に維持する目安とされる2.10を、トルコは9年連続で下回っている。(Veriportali)
こうした状況を受け、エルドアン政権は**2026年から2035年を「家族と人口の10年」**と位置づけた。
政府の公式文書には、
・家族制度と次世代の保護
・結婚の促進
・出生率の上昇
・若者の育成
・人口の地域的な均衡
などが政策上の重点項目として掲げられている。(Uluslararası Aile ve Nüfus Konferansı)
ここで注意しなければならないことがある。
出生率の低下とLGBTQ+の存在に因果関係があるという科学的な話ではない。
人口問題への政府の対応と、「伝統的な家族」を重視する政治的・社会的政策の中で、LGBTQ+をめぐる問題が同じ枠組みに置かれるようになっている、ということだ。
Prideへの規制は10年以上続いている
今回の取り締まりだけを見れば、突然大きな変化が起きたようにも見える。
しかし、トルコにおけるLGBTQ+イベントへの規制は以前から続いている。
イスタンブール・プライドは2015年以来、長期間にわたり開催を禁止または厳しく制限されてきた。
2025年にも禁止され、Human Rights Watchによれば、11年連続で実質的な開催規制が続いた。(Human Rights Watch)
この数年間を並べると、流れが見えてくる。
2023〜2024年ごろ
「家族の価値」を重視する政府の言説やPrideへの規制が継続。
↓
2025年
「家族の年」。
性的指向・性自認などの用語を行政から遠ざける政策や、LGBTQ+に刑事罰を科す可能性のある法案草稿が浮上。
↓
2026年
「家族と人口の10年」が始まる。
LGBTQ+に対する刑事規制を強化する可能性のある法改正案が再浮上。
↓
2026年9月
「My Family Is Safe」という名称のもと、15県にまたがる大規模な捜査へ。
この流れを見ると、今回の事件は完全に孤立した出来事とは考えにくい。
「犯罪捜査」なのか「LGBTQ+への弾圧」なのか
ここは立場によって説明が大きく異なる。
トルコ政府は、子ども、家族、公序良俗を守り、売春やわいせつなどの犯罪を捜査していると説明している。
一方、Amnesty InternationalやHuman Rights Watchなどは、捜査対象がLGBTQ+団体、活動家、関連施設、情報発信者に広く集中していることを問題視している。
Amnesty Internationalは今回の動きを、LGBTIの権利とそれを擁護する人々に対する大規模な圧力だと批判している。(Amnesty International)
欧州の人権機関からも懸念が表明されている。
重要なのは、政府側の説明と、人権団体が指摘している問題を区別して見ることだろう。
「権利は一度獲得すれば終わり」ではない
日本から見ていると、LGBTQ+をめぐる権利の歴史は、時間とともに少しずつ前進していくもののように感じることがある。
しかし世界を見ると、そう単純ではない。
ある時代に認められていた集会や表現が、政治や法律の変化によって再び制限されることもある。
今回トルコで起きていることは、その現実を改めて示している。
同性間の性行為そのものが犯罪ではない国でも、集会、団体活動、情報発信、公的な表現などを制限することで、LGBTQ+の人々が社会の中で声を上げる余地は小さくなり得る。
そしてその規制が、「LGBTQ+を禁止する」という直接的な言葉ではなく、
「家族を守る」
「子どもを守る」
「公序良俗を守る」
といった言葉を通して進む場合もある。
だからこそ、言葉だけではなく、実際に誰が捜査され、誰が拘束され、どの団体が活動できなくなり、どの情報へのアクセスが遮断されているのかを見る必要がある。
これから何を見るべきか
2026年9月16日現在、状況はまだ動いている。
今後特に重要なのは、
今回拘束された活動家たちが釈放されるのか。
追加の全国的な捜索が行われるのか。
遮断された団体やメディアの情報発信が復旧するのか。
そして、これまで検討されてきたLGBTQ+関連の刑事規制が、正式な法案として国会に提出されるのか。
という点だ。
今回の出来事を単なる海外ニュースとして流してしまうのではなく、LGBTQ+の人々が社会の中で活動し、集まり、情報を発信する自由がどのように守られているのかを見る必要がある。
権利は、一度認められれば永久に失われないものではない。
だからこそ、何が起きているのかを知り続けることが重要なのだ。
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※本記事は2026年9月16日時点の情報に基づいています。
主な参照資料:Reuters、Associated Press(AP)、Amnesty International、Human Rights Watch、トルコ共和国 家族・社会サービス省、トルコ統計局(TÜİK)。

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