「ゲイの人生」を、恋も欲望も老いも含めて描く。MORIUO氏が描いてきた“IN MY LIFE”

一枚の絵に、少し目が止まる。

桜の中、車椅子に座る男性と、その後ろから身体を寄せるもう一人の男性。若い恋人たちではない。長く一緒に生きてきたことを想像させる、年老いた二人だ。

この絵を描いたのは、ゲイのイラストレーターMORIUO氏

9月19日から東京・東中野のplatform3で始まった個展のタイトルは、

MORIUO EXHIBITION
IN MY LIFE “drawing”

MORIUO氏が長く描いてきたのは、単に「ゲイの男性」ではない。

好きな人ができること
一緒に暮らすこと
家族になること
欲情すること
孤独になること
そして、歳をとること。

つまり、ゲイとして生きる、その先に続いていく普通の人生だ。

ゲイ雑誌から始まった、MORIUO氏の絵

プロフィールによると、雑誌へのイラスト掲載を始めたのは1999年。その後、LGBTQメディアを中心に、雑誌、広告、冊子、イベントのフライヤーなどを手がけてきた。グラフィックデザイナーとして働きながら、ゲイカップル、同性婚、家族、子育てといったテーマを描いてきた作家でもある。

2019年のORICONのインタビューで、MORIUO氏は、ゲイをテーマに絵を描くようになったきっかけについて、ゲイ雑誌で挿絵を描いた経験を挙げている。

彼が目指していたのは、極端に理想化されたLGBTQ像でも、コミュニティの内側だけに伝わるリアルでもない。その「中間」を描き、外の世界との橋渡しをすることだったという。

この距離感は、今のMORIUO氏の作品にもかなり残っている。

男と男がキスをしている。

でも、それだけが作品の主題ではない。

スーパーへ行ったり、ご飯を食べたり、子どもを育てたり、歳をとったりする。

そこにいる人がたまたま男同士、という絵だ。

「僕はゲイ」 そして人生は、おじいちゃんになるまで続く

MORIUO氏の代表的な展示シリーズとなったのが、「IN MY LIFE」だ。

2021年の展示では、男の子を好きになった幼少期から、大人になってパートナーと出会い、やがておじいさんになるまでを、一つの人生のように描いた。

本人もSNSで「僕はゲイ」と記し、幼い頃から男の子が好きだったことを公に語っている。作品集では、初恋、初デート、同棲、結婚、そして老いた男性カップルまでが一冊につながっている。

このシリーズが面白いのは、未来を「社会問題」としてだけ描かなかったことだ。

結婚できますように。

同性婚が認められますように。

もちろん、そういう願いはある。

でも、そのもっと先に、

結婚したあと、何食べる?
子どもが大きくなったら?
二人ともおじいちゃんになったら?

という時間がある。

2021年、MORIUO氏が描いた「2人のお父さんと子ども」の絵を、カフェに来ていた母親が子どもに見せながら、ごく自然に「このおうちは、お父さんが2人なんだね」と説明したというエピソードがある。

MORIUO氏はその光景を見て、強く心を動かされたと語っている。

たぶん彼が描こうとしてきたものは、そこにかなり集約されている。

「同性カップル」という説明がいらなくなるくらい、生活の風景の一つになっていくこと。

希望だけじゃなく、孤独も描き始めた

ただ、MORIUO氏の作品はずっと「幸せなゲイカップル」だけを描いてきたわけでもない。

2025年にplatform3で開催された「Loneliness and Joy」では、少し違う色が出てきた。

子どもの頃、本当はバレエを習いたかったのに野球をさせられた少年。

同じ野球部の男の子にバレンタインのチョコを渡して、からかわれる。

「こういう気持ちは、人前に出してはいけないんだ」と覚えてしまう。

そこから孤独が始まり、やがて高校生になって誰かに恋をする。

タイトル通り、

Loneliness=孤独と、Joy=喜び。

ゲイとして生きる時間の両方を描いた展示だった。

そして2026年2月には、同じplatform3で「放課後、ユニフォームで走る君を僕はいつも目で追っていた」を開催。

運動部の男子やユニフォームに目を奪われた記憶を題材に、新旧のイラストやショート漫画を展示した。

家族

老後

孤独

初恋

そしてフェチ

少しずつ、「ゲイの理想の人生」だけではなく、もっと個人的で、曖昧で、ときには性的な部分まで絵の中に入ってきたように見える。

そしてJack’d。「愛情」と「欲情」の間

そこに2026年9月、面白いコラボレーションが加わった。

ゲイ向けアプリJack’d JapanとMORIUO氏のコラボだ。

Jack’dが公開した映像に使われたコピーは、

「愛情 欲情 どっちが尊い?
誰がジャッジするの?」

そして、

LOVE + LUST

MORIUO氏自身も、今回は自身の作品の中から「少しセクシーなモノクロ作品」を映像作品にしてもらったと紹介している。映像制作はVJなどで活動するnaomixxx。さらに使われた男性同士のキスの作品は、MORIUO氏によれば2011年に描いたアクリル作品で、後年ポスターとして再販され完売したものだという。

これは、MORIUO氏という作家を考えるうえで、結構重要な展開なのかもしれない。

LGBTQを語るとき、ときどき「愛」の話ばかりになる。

同性同士でも愛し合っています

家族になりたいんです

幸せになりたいんです

もちろん、それは本当だ。

でもゲイの人生には、もっと生々しいものもある。

好きな男の身体を見てドキッとする

ユニフォーム姿の男を目で追う

誰かとキスしたい

セックスしたい

アプリを開く

それも同じ人生だ。

愛情だけをきれいに切り取らなくていい。欲情まで含めて人間じゃないか。

Jack’dとの「LOVE + LUST」は、MORIUO氏が長年描いてきた「IN MY LIFE」を、もう少し身体の側から読み直した企画にも見える。

日本のプライドの歴史も、MORIUO氏の線で描かれた。

今回の「IN MY LIFE “drawing”」では、さらに別の時間も展示されている。

ドキュメンタリー映画『熱狂をこえて』のために描き下ろしたイラスト原画だ。

映画が追うのは、活動家の南定四郎。

南は1984年にゲイ解放運動を開始し、1994年には日本で初めてのプライドパレードを実現させた人物だ。映画は成功だけではなく、その後、運動内部との対立を深め、第一線から退いていくまでを含めて半生を追っている。監督は松岡弘明。MORIUO氏はイラストを担当している。

ここも興味深い。

MORIUO氏がこれまで描いてきたのは、

「いつか男の子と結婚できたら」

という未来だった。

一方で『熱狂をこえて』が扱うのは、

その未来がまだほとんど見えなかった時代に、道を作ろうとした人たちの過去だ。

1994年のパレード。

2026年のゲイアプリ。

その間にある30年以上の時間を考えると、今回の展示で映画の原画とJack’dとの仕事がほぼ同時期に並ぶこと自体、妙に象徴的に見えてくる。

ゲイの人生は「プライドの日」だけではない

MORIUO氏の絵には、大きな声があまりない。

レインボーフラッグを掲げて訴える絵だけでもない。

むしろ描かれるのは、

好きな男の子を目で追った放課後

誰かと暮らす部屋

年老いた二人

孤独だった少年

ちょっとエッチな妄想

そんなものだ。

でも、考えてみれば人生のほとんどはそういう時間でできている。

パレードを歩くのは一年のうち一日かもしれない。

残りの日々は、

仕事へ行って

誰かを好きになって

失恋して

アプリを開いて

ご飯を食べて

少し歳をとる。

今回のタイトルは、また「IN MY LIFE」だ。

1999年からゲイの姿を描いてきたMORIUO氏が、2026年になっても同じ言葉を使っている。

それはたぶん、描くものがなくならないからだ。

ゲイの人生は、

カミングアウトしたところで終わらない。

同性婚ができるようになったとしても終わらない。

恋だけでもない

欲望だけでもない

若さだけでもない

そのあとも、ずっと生活は続いていく。

今回のフライヤーに描かれた、桜の中の年老いた二人を見ていると、そのことがよくわかる。

⸻

MORIUO EXHIBITION「IN MY LIFE “drawing”」

  • 会期: 2026年9月19日(土)〜10月2日(金)
  • 会場: platform3/東京都中野区東中野1-56-5 ホシノビル401、JR東中野駅西口すぐ
  • 展示: 新作・既存の手描き作品、『熱狂をこえて』描き下ろし原画、大人のための展示時間、ユニフォーム塗り絵着せ替えポストカードなど。

PRIDE LIFE JAPAN
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